田母神問題

自衛隊の幹部が過激な論文を公表していたという問題。内容と手続の問題を分けて考えることが大事だと思う。僕自身、田母神さんの論文(論文と言えるほど大部なものではないが)を通読したが、内容に関しては、表現の問題として過激な部分はあるものの、全体的にまっとうな主張であるように思った。「日本は侵略国家というレッテルを貼られているが、日本の行った行為が侵略行為であるならば、他の列強もすべて侵略国家である」「日本は条約に基づいて海外に駐留したものであり、それは現在の日米安保条約に基づく米軍の駐留と一緒」「東京裁判は大戦の責任をすべて日本に押しつけようとしたものであり、この呪縛が未だに自衛隊の動きを縛っている」などなど。おそらく、国会で彼を糾弾している政治家の多く、またマスコミで社説を書いている論説委員の多くが内心では彼の主張に共鳴しているのではないか。そういう意味で、どことなく各紙の社説や国会質問がどことなく空々しく映ってしまう。

一方で、多くの人たちが言うように「自衛隊幹部という立場であの主張をしたのは問題」という手続的な問題は当然ある。田母神さん自身は自分の辞職も覚悟した確信犯だろうと思うのだが、とはいえ、現在の政権のスタンスとは異なるいわば反体制的な主張を公然としたのは問題である。自分の主張に対して責任を持たなければならない政治家であれば許されるが、行政府に属し、立法府で決まったことを粛々とこなすことが求められる公務員、しかもそのトップの主張としてはいかにもまずい。そういう意味で、本来は懲戒処分があって然るべきだった。

難しいのは、自衛隊の幹部という極めて影響力のある人間がそのような主張をして初めて論点が定義され、まっとうな議論が行われる契機になるという効果も否めないことである。平和ボケした日本、半径3メートルのことしか関心のない国民、スタンスを取らない政治家といったことに強い問題意識を感じて田母神さんは問題提起をしたのだと思うが、そういう意味では立派な行動だったと思う。