M8

防災の日だからというわけではないが、高島哲夫のM8という小説を読んだ。東京直下型のM8の地震が起こるストーリーで、阪神大震災の被害者である地震研究者を主人公に置き、地震が起こる前後の状況を描写している。前半は、主人公が我が国では一般的でないコンピュータ・シミュレーションと、気象・動物の異常動態の合わせ技により近日中に東京直下型の大地震が発生することを予知し、それを何とか政府首脳にインプットし、対応策の発動を求めようとする展開。人間の性向上当たり前のことだが、起こるかどうか分からない将来の事象に対して本気で備えるための決断をするのは、たとえば現在の温暖化問題への対応を見ていても分かるようになかなか現実世界でもできることではない。


後半は実際に地震が発生してからの初動対応について。ここでは自らリスクを取って次々と能動的にリーダーシップを発揮する都知事と、優柔不断でなかなか判断を下せず対応が後手後手にまわる総理大臣(実世界でも同じか)をうまく対比させながら描写している。有事の際にこそリーダーの器の大きさというのが試されるのだなあということをしみじみと考えながら通読した。


文献からのインプットだけでなく、地震の被害者への取材をきちんとやればもう少しリアリティを出せる部分がありそうなのがちょっと残念だが、なかなかの出来の作品だと思う。

M8 (集英社文庫)

M8 (集英社文庫)