経営戦略を問いなおす

なかなかの本である。猫も杓子も「戦略」という言葉を重宝して用いるが、そもそも策定される代物が戦略でない場合(戦術と混同している場合)、あるいは、戦略として策定されたとしてもその戦略がすぐに棚上げされてしまう場合が大半で、戦略とは何ぞやということをきちんと理解して戦略を策定し、戦略に沿って判断し行動できる組織があまりにも世の中に少ないということが著者の問題意識の発端である。


本書の中で、著者は戦略の肝として「立地(ポジショニング)」「構え(基本設計)」「均整(バランス)」という三要素を提示しており、これ自体は何ら新しい概念ではないが、特に日本企業に着目した場合、これらの要素を入れ込んで戦略を策定するのが経営者ではなく部課長級の管理者であることが最大の問題であるとしている。短期的視野の縦割り社会の中で長年キャリアを積んできた部課長が中長期の横断的戦略を策定するのは、いかに有能な人材であっても困難であり、経営の素質を持った人材をできるだけ早期に選抜し、様々な試練を与えた上で10年以上の長期にわたって経営を委ね、戦略も当然経営者が策定すべきであるというのが著者の主張である。「(社長の)長任期は高収益を保証しませんが、短任期の連続は低収益を不可欠とします。」ということをデータで裏付けながら結論づけているのはなかなか清々しい。


経営戦略を問いなおす (ちくま新書)

経営戦略を問いなおす (ちくま新書)