上海クライシス

春江一也の新作「上海クライシス」を読んだ。外交官出身という経歴を持つだけあり、「プラハの春」「ベルリンの秋」「ウィーンの冬」とヨーロッパを舞台にしたリアリティあふれる小説を出してきたが、今回は昨年起きた上海領事館の領事が自殺した事件をベースにした中国の話。中国の近現代の歴史については色々な小説を通じて勉強してきたつもりだが、この作品ではウィグル人という少数民族の悲劇に焦点を当てており、こんなニッチな世界をよく調べ切ったということにまず感心した。それと、中国の公安が日本の外交官をたらし込む過程が生々しく書かれているのだが、フィクションということで誇張が入っているのが前提だとしてもまんざら嘘でもないんだろうなあと考えさせられた。外交の最前線というのもなかなか大変な世界である。最初の導入部分の丁寧さに比べて、エンディングにかけての書き方が雑なのがちょっと気になったが、まあ許容範囲。

上海クライシス

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